総評
・『熱異常』(作詞・作曲・編曲いよわ)があまりに自分に刺さってしまい、クソデカ感情をどうしたらいいのか分からなかったので、歌詞考察を試みていました。まだ書きかけなのですが、試験的に公開してみます。お見苦しい限りなのですが、もし刺さった!という方がいれば、共にその感想を分かち合いたいです。よろしくお願いします。
・本作の考察を進めていく中で私の中に生まれていった疑問は、当該の世界観の足立レイの立ち位置についてです。本作は作者のいよわ氏が、初めて「レプリボイス 足立レイ」を使用して作曲した作品であり、立ち絵にも足立レイが使用されています。本作は「終末もの」の世界観を呈しており、彼女の視点から、滅亡に向かう世界を記録した、と見るのが妥当な解釈のように思われます。この場合に問題となるのは、歌詞の中に、ロボットには存在しない、生身の人間に関連するワードが頻出することです。本考察では、レイ自身が生身の肉体を得た場合と、レイ以外の人物がレコーダーに記録を残していたという二つの解釈に分けて、考察を進めていきたいと思います。
・本作における世界崩壊、アポカリプスの原因は、①クトゥルフ神話、あるいはSCPにおける危険な異常存在による世界崩壊シナリオなどの、意思ある上位存在による滅亡のパターンと、②「熱異常」というタイトルが象徴するように、なんらかの自然的現象(隕石の衝突とか?)によって滅亡するパターンの、いずれか、あるいは両方が考えられます。こちらも二つの場合をどちらも取りうる、という視点で考察していきたいです。
歌詞の考察
(※)「死んだ変数で繰り返す
数え事が孕んだ熱
どこに送るあてもなく
あわれな独り言を記している
・「死んだ変数」「数え事」は、機械的なイメージを与えます。レイが持っているレコーダーか、あるいはレイのロボットとしての身体を指しているように推測できます。
・(※)「死んだ~孕んだ熱」までの歌詞は、曲全体の中でリフレインされます。これはつまり、レコーダーに記録された側の音声で、幾度も再生されていることを意味しているのではないでしょうか。レイがレコーダーに記録した、自らの状況の記録なのかもしれません。
・「熱」は本作において、タイトルにも入っているようにキーワードだと言えます。これはかなり自分の妄想が入ってしまいますが、「熱」を持つものは、恒温生物、つまり、魂や生命と結びつけられそうです。レイ/レコーダーは、本来はただの機械でしかありませんが、それが「熱」を帯びることで(この現象自体が「熱異常」の一つなのかもしれません)、魂を持つ存在となり、流浪の旅をしていたのではないでしょうか。
・レコーダーは「あわれな独り言」を記録し続けますが、これは元の持ち主か、あるいはレイの体験・証言を指しているものと思われます。この曲そのものが、レコーダーに記録された音声の再生という形式を取っているという解釈を見かけ、とても興味深く思いました(歌詞の最初と最後の鉤括弧からも、この曲全体が再生されているものという推測を可能にします)。
電撃と見紛うような
恐怖が血管の中に混ざる
微粒子の濃い煙の向こうに
黒い鎖鎌がついてきている
消去しても ……
無くならないの
・Aメロ(正直ポエトリーリーディングかラップに近いので、こうした区別は不要かもしれません)
・レイはロボットの身体なので、時折言及される生身の人間の身体の特徴は多少の違和感を覚えさせます。解釈の方法は今のところ二つ、提案できるでしょう。(1)人間的な特徴の記録は、以前のレコーダーの持ち主による「異常」の記録と見る。(2)レイ自身が何らかの方法で肉体と魂を得て、その身体で「異常」を体験している(前パートを参照)。
・本作の最大の特徴である、高速のリフレインは、動揺、錯乱、強調などを表すのと同時に、壊れかけたレコーダーの不気味な再生とも取れます。このリフレインによって、切迫感が非常に増しています。
(※※)とうに潰れていた喉
叫んだ音は既に列を成さないで
安楽椅子の上
腐りきった三日月が笑っている
もう
すぐそこまで ……
なにかが来ている
・「潰れていた喉」は、本人の喉が潰れていたら声が出せないので、メタ的な言及になっています。レコーダーに記録されていた音声に対して、レイが状況記録を行ったと解していいのでしょうか?
・ここの歌詞は二つ目のリフレインとなっています。最初と最後に同じ諦めのニュアンスが提示されることで、「なにか」に対して、人間があまりにも無力だったことが示唆されます。
・「安楽椅子の上」は何を意味しているのか、推測が立てづらいです。「腐り切った三日月」の方も、そのままに受け取ることは不可能ではないですが、比喩的な表現と見てもよいと思われます。もしかしたら元ネタがあるかもしれませんが…。とりあえず、三日月は「笑っている」ので、後述の「黒い目」と関係しているかもしれません。上位存在に弄ばれて人類が滅んでいるのだとしたら、笑っているのは「なにか」の口とも取れるでしょう。
大声で泣いた後
救いの旗に火を放つ人々と
コレクションにキスをして
甘んじて棺桶に籠る骸骨が
また
どうかしてる……
そう囁いた
・人々の混乱の様が表現されています。
・骸骨が囁くのは、生死という理が崩壊していることを意味しているのでしょうか。あるいは、超常的に解さないのであれば、あまりに理不尽な滅亡に対するやり切れなさを表現していると見るのが妥当でしょうか。
未来永劫誰もが
救われる理想郷があったなら
そう口を揃えた大人たちが
乗りこんだ舟は爆ぜた
黒い星が ……
彼らを見ている
・宇宙船で地球を脱出しようとする計画が失敗したことが読み取れます。宇宙船は「黒い星」によって破壊されたのか、それとも、「黒い星」はただ見ているだけなのか、それは解釈によって変わってきそうです(上位存在とみるなら前者、異常現象とみるなら後者になるかもしれません)。
・「黒い星」とは何なのでしょうか。もし本当に黒色の星だとしたら、発光していないので、地上からは見ることができません。よって比喩と見るのが自然ですが、一体何の比喩だと解するのが適当でしょうか?自分なりの推測を列挙してみると、①空の色彩が変質し、黒い「なにか」が空から人間を見下ろし続けている。②上位存在の目、あるいは人間が怪物になったものが生存者を見ている。③太陽の黒点の可能性?太陽の黒点の数が増えると、フレア現象が同時に活発になると聞く。地球が消し飛ぶほどのフレア現象が起きた可能性も考えられるのではないか(「熱異常」というキーワードとも噛み合いがよい)、といった候補が立てられそうです。
哭いた閃光が目に刺さる
お別かれの鐘が鳴る
神が成した歴史の
結ぶ答えは砂の味がする
・サビ2
・強烈な光によって、多くの人間が亡くなる様が描かれます。神が作ったという世界は崩壊し、全てが砂へと還っていく、と解釈することができるように思われます。あるいは、「砂」を比喩として受け取るならば(ロボットの身体では味は分からないので)、砂粒が吹き飛ぶほどあっけなく/無価値に、人間の文明が滅んでいく様を表している、と見るのもありかもしれません。
・強烈な光と言えば、思い浮かぶのは原爆・水爆ですが、あれらは人類が滅ぶほどの威力は持ってはいません(それでも危険かつ絶対に使ってはいけないのは言わずもがなですが)。天体レベルでの異常が発生した(先程のフレアなど)と考えるのが自然でしょうか。