電子の雑煮

レポートが苦手な大学生です。苦手を克服するためにレポートを公開したいと思います。

哲学史のススメ

〈はじめに〉

 この記事では、哲学に興味を持った方が最初に読むのにおすすめの本の紹介をします。下記の哲学史の本たちは、ある程度の専門家が書いている本の中で、堅苦しすぎずに読めるものをピックアップしてみたものです。気負わずに、気楽にトライしてみてください。哲学の本は、確かに小難しいことがつらつらと書いてあるものが多いですが、慣れてくると意味分からんなりにも、「こういうこと言ってるのかな…?」ぐらいの推測は立てられるようになると思います(今の自分でも、正直まだそんな段階ですが…)。ふと思ったその関心が、ゆくゆくは研究のテーマ(学生さんの場合は卒論とか)にまで膨らんでいくということも、往々にしてあります。自分の中のささいな「気になる」を、必ず見過ごさないようにしましょう。

 また、これは山野(2022)の受け売りなのですが、本にはぜひ書き込みをしましょう(実際の書き込みの仕方は、山野(2022)を読んでみてください。自分でもいつかまとめたいです)。ただし、借りた本に書き込んではいけません。そのため、しっかり腰を据えて読む本は、なるべく買うことが望ましいです。一応本の値段も一緒に書いておきますが、多くは古本も出回っているので、適宜古本屋や販売サイト(Amazon、日本の古本屋、ヤフオク、メルカリなど…)を上手く利用して集めるようにしましょう(積読は恥ではありません。読まれる機会を待っているだけなのです!)。

 下記のものに飽き足らず、より詳しく知りたくなった方は、こちらの記事も参考になるかもしれません。

・ネオ高等遊民「【哲学史】時代・地域・テーマ別おすすめ解説書100冊」

https://note.com/kotoyumin/n/n0271d0732fa5

→哲学を紹介するYouTuberの方が書かれた記事です。自分なんかよりよっぽどたくさん読んでらっしゃるので、ぜひ!

〈本の紹介〉

納富信留檜垣立哉・柏端達也編(2019)『よくわかる哲学・思想』、ミネルヴァ書房。-2640円。

→本書は、それぞれの分野の専門家が分担して書いた入門書です。それぞれのトピックが見開き1ページで収まっているので、気軽に読むことができます。読書案内も充実しているので、ステップアップしていく一歩目に最適の入門書だと言えます。最初はこの価格帯の本を少し高いと感じるかもしれませんが、この本の価値が分かってくると、値段にも納得がいくと思います。(追記:ミネルヴァ書房からは、こうした見開き型で専門家による知見を手軽に読むことのできるタイプの入門書が、ここ数年よく出ています。歴史学の『論点・○○史学』シリーズなども非常におすすめなので、興味がある方はぜひのぞいてみてください)。

 

岩田靖夫 (2003)『ヨーロッパ思想入門』、岩波ジュニア新書。-990円。

→この本は、哲学だけでなく、ギリシア神話や聖書の要点を押さえられる点で、とても優れた入門書だと言えます。哲学の本を読んでいると、そういったヨーロッパの昔話が「当然知ってるでしょ?」といったノリで使われることが本当に多いです(あちらの方からすれば、「桃太郎」や『源氏物語』を引用するような感覚なんでしょうね)。「そういうの全然知らないわ…」という方は、まずはこの本でウォーミングアップをしてみましょう。宗教と哲学の関係の深さも、本書を通して理解できると思われます。コスパ的には一番おすすめです。

 

③ 伊藤邦武(2012)『物語 哲学の歴史:自分と世界を考えるために』、中公新書。-990円。

→有名な哲学者たちを並べて断片的に解説するのではなく、タイトル通り、古代から現代までの哲学の歴史に一つの流れを見出そうとすることを試みている、意欲的な本です。一人の著者がまとめて書いている哲学史はどれも、もちろん公平な記述が目指されてはいるのですが、時折、筆者自身の問題意識が反映・接続されたりすることがあって興味深いです(この本の場合だと、「心」や「意識」といった主題が前に出ていると言えるでしょうか)。文章も非常に考えを尽くして書かれており、後になって読み返すことでさらに見えてくるものも多い、傑作だと聞いています(先生からこの話をうかがったのですが、自分はまだ全然その領域に至れていません…)。

 

熊野純彦 (2006)『西洋哲学史:古代から中世へ/近代から現代へ』(全2巻)、岩波新書。-各巻1078円。

→本書は、これまでの哲学史ではあまり重視されていなかった部分(ヘレニズム期~中世の哲学、啓蒙思想の諸相など)も盛り込むことで、基本となる説明はもちろんのこと、哲学史の新たな一面を示そうと試みている本だと言えます。内容も非常によくまとまっていますし、原典が多く引かれているので、実際の著作の雰囲気も試してみることができます。後ろの説明付きの索引も、初学者にとっては非常にありがたいです。2冊目以降に挑戦する本として、最適だと思われます。

 

⑤ バクストン, レベッカ、ホワイティング, リサ(2021)『哲学の女王たち:もうひとつの思想史入門』、向井和美訳、晶文社。-2200円。

哲学史の本を読んでいくと分かることですが、学問の歴史にはマジで男性しか出てきません。このことに疑問や不満を持つことはもっともだと思います。本書は、女性の哲学者だけをピックアップしてまとめた哲学史であり、上述のような気持ちを抱いた人の助けになるであろう本です。これを読むと、哲学史においていかに女性の活躍が矮小化されてきたかを理解することができます。「時代が時代なんだからしょうがないじゃん」と思ったそこのあなたにも、本書は読まれるべきです。それは、彼女たちの活躍が「紙幅の関係上」、省略されてきたことは間違いないからです。

 

 付け加えておくこととして、上記の本たちは入門書としておすすめというだけなので、学生さんがレポートを書く際には、入門書・概説書だけでなく、辞典や大部の哲学史も利用してみましょう。大学の図書館や規模の大きな図書館には、オレンジ色のカバーがよく目立つ『哲学の歴史』(全12巻+別巻、2007-2008、中央公論新社)や、近年新訳が出版された『スクリブナー思想史大事典』(全10巻、2020、丸善出版)、哲学科生なら持っていて絶対損しないところの『岩波 哲学思想事典』(1998、岩波書店)など、多くの専門書がそろっています。そこから、レポートで使えそうな説明を探して、事前に印刷しておくようにしましょう(奥付も忘れずに!)。

 

〈本の選び方〉

 上記以外にも、様々な学問分野や本に興味を持ってもらえると嬉しいです。本選びのコツは、①著者・訳者・編者(誰が書いたかはもっとも重視しなければなりません)、②出版社(残念なことに、信用できない出版社もあります…)、③出版年の三つを意識して買うことです。買ってから「失敗したな…」と思うこともあるかもしれませんが、その買い間違いの体験こそが、皆さんの目利きの程を高めてくれるはずです。恐れずに買い間違えましょう。とりあえず、ある程度信頼のおける出版社の文庫・新書レーベルの一部を以下に挙げておきます(これ抜けてるよ!というのがあればぜひご連絡ください)。

〈おすすめの出版社リスト〉

岩波書店岩波文庫岩波現代文庫岩波新書・岩波ジュニア新書)

筑摩書房ちくま学芸文庫ちくま新書ちくまプリマー新書

講談社講談社学術文庫、△講談社現代新書講談社選書メチエ

中央公論新社(中公文庫・中公新書・△中公クラシックス・日本の名著・世界の名著(←古本しか出回っていませんが、中公クラシックスの内容と同じものが詳しい解説付きで、一部激安で読めます。神保町の古本屋さんを巡ってみてください))

⑤その他おすすめ:NHK出版(NHKブックス)、河出書房新社河出文庫)、光文社(△光文社古典新訳文庫(←平易な訳を心がけるコンセプトは素晴らしいのですが、一部批判の多い訳書もあるので、事前に評判を調べてから買うことをおすすめします))、清水書院(「人と思想」シリーズ)、新潮社(新潮文庫、×新潮新書)、白水社文庫クセジュ)、平凡社平凡社ライブラリー平凡社新書)。

 

〈参考文献〉

山野弘樹(2022)『独学の思考法 : 地頭を鍛える「考える技術」』、講談社現代新書